ダビンチ・ミステリー2

NHKスペシャル 2019.12.20

ダビンチ・ミステリー2  万能の天才の謎〜最新AI明かす実像

 

(オープニング)

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズが生涯魅せられた人物がレオナルド・ダ・ヴィンチ。没後500年となる節目の年、パリ・ルーブル美術館で史上最大のダビンチ展が開かれている。展示作品の手稿には医学、幾何学など研究の成果の他、謎めいた記述も。望遠鏡もなかった時代に太陽の位置や形を特定し、ガリレオ・ガリレイが地動説を主張する100年前近くでありながら、「太陽は動かない」とも併記。当番組では謎に包まれた万能の天才の正体に最新の人工知能で迫る。

 

ダビンチ・ミステリー

時代を超える”万能の天才” ダビンチの謎

ルーブル美術館では史上最大のダビンチ展が開かれていて、サカナクションの山口一郎は絵画や手稿を鑑賞した。手稿には500年前のものとは思われない思考や発想が記述されていて、山口は芸術と科学の両分野でダ・ヴィンチが何故、常識を超えた成果を残せたのか気になるという。

 

”万能の天才” ダビンチ なぜ時代を超越できたのか?

イギリス・ケンブリッジで心臓外科医を務めるフランシス・ウェルズ氏はイギリス王室が厳重に保管しているダ・ヴィンチの手稿を見た際、精密な心臓のスケッチに感嘆した。ダ・ヴィンチは生前、イタリア・フィレンツェにある病院に通い、人体解剖を繰り返していた。骨、臓器、血管の1本1本に至るまで観察していたとされる。ウェルズ氏は心臓の動脈内部のスケッチに着目し、弁と血液の流れを表現したスケッチに舌を巻く。

 

世界初!最新AIで挑む ”万能の天才”の謎

当番組ではレオナルド・ダ・ヴィンチの思考の断片が記された手稿に注目し、文書を人工知能に読み込ませ、言葉を解析させた。5600ページに記された文書は単語レベルに分解すると、76万語に分けられた。若かりし頃、ダ・ヴィンチは川の流れ、侵食について研究していた。人工知能の解析で、川という言葉は水、回転を介して、渦という言葉と連想ゲームのように繋がった。ダ・ヴィンチは川の流れの仕組み、解剖によって把握した動脈の構造を重ね合わせ、血液の流れを導出したと考えられる。そして、動脈内部の弁が閉じるためには血流が渦を巻く必要があると推測したと思われるという。

 

500年を経て浮かぶ ”万能の天才”の正体

東京造形大学の池上英洋氏はレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿はダ・ヴィンチ独自の鏡文字で記され、読み解くのが難しいと話す。そんなダ・ヴィンチは高等教育を受けていなかったにも関わらず、ガリレオ・ガリレイアイザック・ニュートンチャールズ・ダーウィンといった知の巨人たちの遥か前に同じような発想を持っていたとされる。

 

ダビンチ 謎の地図 ”万能の天才”の正体は?

ダ・ヴィンチが記したイタリア・エモラの俯瞰的な地図は現代の衛星写真と遜色ない正確さとされる。ルネサンス時代の機械に詳しいジャンルイ・ピロニオ氏、ダ・ヴィンチ研究のパスカル・ブリオワ氏は手稿に記されていた、計測に関連する機械の再現を試みた。一定距離を動かすと歯車が回転し、歯車の内部に設置された球が落ち、その数で距離を測る仕組みになっていた。プリニオ・イノチェンツィ教授はフィレンツェからミラノに移住したダ・ヴィンチについて、ダ・ヴィンチを中心とした何らかの知識人ネットワークがあったのではないかと話す。建築家のマルティーニ、数学者のルカ・パチョーリと邂逅するなか、あらゆる分野に必須な存在は数学ではないかと認識したと考えられるという。

 

ダ・ヴィンチの手稿をもとに再現した一種の測定器で、上空から見下ろしたかのような地図の一部が再現できるのか実験が行われた。ダ・ヴィンチの地図に計測した道路が一致し、今回のような作業に加え、建造物の大きさ、河川なども計測し、地図を作り上げたと考えられる。また、ダ・ヴィンチは鳥の飛翔に関する研究に長い時間を割いていた。数学、工学、飛行の原理など、異なる分野の関心が結びつき、知識を広げていった。物理学者のフリッチョフ・カプラ氏はレオナルド・ダ・ヴィンチについて、「システム思考(複雑化した事象を解明するため、従来の分野の垣根を超え、全体の繋がりで捉える発想)の持ち主ではなかったか」と評する。

 

アートとサイエンスの融合 ”万能の天才”の秘密

レオナルド・ダ・ヴィンチは科学、芸術を行き来する作品を生み出した。その中に、「ウィトルウィウス的人体図」、複雑な遠近法、幾何学的な構図を取り入れた「最後の晩餐」がある。そんなダ・ヴィンチは最後まで手放さなかった3枚の絵があり、その1枚が「モナ・リザ」。ダ・ヴィンチは人間の笑顔の表情が口元のどのような筋肉で作られているのか解剖によって調べ上げていた。また、「岩窟の聖母」には地質学、植物学が詰め込まれている。

 

”万能の天才”が追い求めた”世界”とは?

レオナルド・ダ・ヴィンチの知識量は亡くなるまで増えていたといい、人工知能による手稿の解析で、強いこだわりを持っていたのが「水」。「ジネヴラ・デ・ベンチの肖像」、「聖母子と聖アンナ」、「モナ・リザ」の背景には水の風景が描かれている。また、手稿の解析で水は血液と結びつき、生命の根源的な関心へと繋がっていた。さらに空気、運動などの言葉を介し、人間を取り巻く地球全体にも繋がった。ダ・ヴィンチが眠るフランス・アンボワーズを訪れた山口一郎は現代のツールを駆使して、ダ・ヴィンチが遺したものを探っていくべきと思うと話す。

 

ダビンチ・ミステリー

レオナルド・ダ・ヴィンチが永眠してから500年、今なおその存在は多くの人たちを魅了し続けている。時代を超越した発想に刺激を受けた、心臓外科医のウェルズ氏は手稿から着想を得て新たな心臓の手術法を開発した。氏は「常識にとらわれないことの大切さをレオナルドから学んで欲しい」と学生たちに伝えている。現代において、複雑化、グローバル化した問題に細分化された学問では対応できなくなっている。ダ・ヴィンチのような繋がりから世界を捉える思考が求められているのかもしれない。

(エンディング)